中小企業で頑張る“タンクん”に明日はあるのか?

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告は非表示になります。
  

Posted by スポンサー広告 at

2015年06月11日

そして・・・これから・・・

中小企業にとって大きな出来事がありました。
この物語は、発生当時からのタンクんの行動をつづっています。

その後の物語もいろいろとありました。

先ずは当時の出来事から回想してみましょう。
  


Posted by タンクん at 09:18Comments(0)

2015年06月11日

プロローグ

なんてことはない。全て想定してたことさ。
中間管理職 相原真 41歳 既婚 子供2人 小さいが一戸建てに住む。
バイタリティーあふれる彼は周りからも慕われ、頼りにされていた。

就職して15年 会社の内情も少し解り、改革を推し進めなければと思っていた矢先のことだった。

家庭に不満がある訳ではない。ただ刺激がほしかった。冒険してみたかった。それだけのこと
“浮気のひとつもできない男は駄目”そんな言葉が頭をよぎる。

順調で、単調な日々の生活に少し刺激がほしい。
最初はそんな気持ちからだった。

朝一番にパソコンの電源を入れる。いつものように沢山のメールだ。
その中に『当選』の文字。そういえば何かと懸賞サイトに応募してみたりもした。

スポンサーサイドの懸賞に当選されました。
住所・氏名等 詳細を記入して登録して下さい。
商品券をお贈りします。

たった1000円の商品券。
それでも当選なんだから登録しとけ。
ちょっとは小遣いになるかな。

この不景気に残業カット・給料削減は痛い。子供の将来も不安。
なにより自分の将来も。
だから改革なんだよねってサービス残業の日々。

今日も疲れて駐車場に向かう。
突然携帯にメールが入った。
『すぐ会いたい。ダメですか?』
はぁ? どうゆうこと?

それから色んな人からのメール。
ちょっと待った。これはいったい・・?
そうか。 あの登録か。

彼は一歩踏み出そうとしていた。


  


Posted by タンクん at 14:37Comments(0)

2015年06月12日

ロジカル・・・1

携帯のメール着信はひっきりなしに続いた。

『会える人ですよね?待ってます』
『いま、シャワー中。見たい?』
『どこにしますか? ・・・』

色んな人からのメール。
そのほとんどがある目的をもったもの。

これが出会い系サイトか。
しかし、みんなそうなんだろーか?
みんなこうして・・・

『連絡待ってます。』

『あなたの好きにして下さい』

携帯の着信音を消した。
最初は音を小さくしたが、それじゃだめだ。
家での着信は気を使う。
悪いことをしているようで・・・

まだ何も始まっていないのに。

『あなたの精子を下さい』

『3Pは好きですか?』

だんだん過激なものが送られてくるようになった。

みんなそんなに・・・
いっぱいいるんだなぁ・・・

『逆援助交際希望。50万では?』

興味が湧かない人はいないだろう。
メールが送られるようになって2日後、
初めて返事をした。
  


Posted by タンクん at 07:38Comments(0)

2015年06月12日

ロジカル・・・2

『臨時朝礼を行ないます。全員食堂にお集まり下さい』
いつもの声・いつもの調子

昨日 上司には聞いていた。
『会社は民事再生を出した。』
『あす。発表だから』

さほど驚きは無かった。会社が儲かっていないのは知ってたから・・・

自称改革派としては、もっと早くこうなる事を望んでいたのかもしれない。
一度チャラになれば、道は開けるのではないか?
とはいえ・・・サラリーマンはつらいものである。

ぞろぞろといつもの様に集まってきた。・・・何も知らずに
総勢約80名

『社長からの伝言を伝えます。』 工場長がマイクを持った。
『我社は長年活躍してきました。各プロジェクトも順調に推移し、やっと黒字を
出すことができました。しかし、いままでの赤字により資金繰りが悪化し、本日
民事再生を申請しました。』
みんなきょとんとしている。
『皆さんの頑張りによりこれから大きく変わろうとしている時に、経営者として
このような恥ずかしい決断をしなければならないことは、まことに・・・・』

もう聞こえていない。だれも聞いていない。
みんなの動揺は明らかだ。

さて。どうする?
解散後すぐにメールが来た。
  


Posted by タンクん at 15:02Comments(0)

2015年06月12日

ロジカル・・・3

『どこで逢う?いつ逢う?』
メールの主は先日返事をした人だ。
写メール
30歳には見えない活発でかわいい。

会社のことはさておき・・なぜか惹かれる。
会ってみたい。

早速返事だ。
『どこかの駐車場はどう?』
『迎えにいくよ?いっぱいHしようね』
『あさっての夕方はどう?』
『仕事なんだ・・・』
『君の都合のいい時でいいよ』
『わかった。連絡するね。』

こんな会話久しぶりだ。
なんと心地よいのだろう。

そういえば最近刺激はなかった。
唯一の刺激が会社のことだなんて・・・

次の日の朝
おはようメールが来た。

妻には内緒で返事をだす。
そして・・・・
  


Posted by タンクん at 17:11Comments(0)

2015年06月14日

ロジカル・・・4

なんと表現しよう。この感覚。遠い昔、若かりし日々の記憶。
いかがわしい期待で体の奥から元気がでている。

『仕事が忙しいんだ・・ねぇ。どんな格好で待ち合わせようか?
私はファーのジャケットに赤のミニかな』

『何処で会う?』
『こんど車買うんだ。私のBMWいらない?』
『いらない。近くの駅までいくよ』
『早く逢いたい。得意なのはアナル舐めることかな』


『民事再生の申請が認可された。今から計画を建てる。皆さんへの説明はしっかりします。』

不意に耳に聞こえてきた。ここは全体朝礼。
発表の日からもう10日。
混乱はあったが、なんとか仕事をやっている。

給料は?退職金は?
『今月定年なんだ。相原くん調べてくれよ』
会社への不満・疑心・色んな感情はあるが、ここは皆の為・・・

『こんどの土曜日に逢おうね』

金曜日の深夜
『ごめん。ダメみたい。仕事入っちゃった。
次は絶対だから・・・ネ。』

『いい時でいいよ。』

あせってるわけではないが、いい気にはなれない。

こんなことが3回も続いた。
約束をしては、前の日にダメになる。
当日の朝ダメになる。
それでもメールを待っている。はかない想い。
そう、いかがわしい想い。

そして・・やっと・・
  


Posted by タンクん at 06:18Comments(0)

2015年06月15日

ロジカル・・・5

北九州市・小倉

『また着てるよ、好きだね~』
『どうしたんですか?』
『ほら、また着てるよ。よほど会いたいんだね』
『そりゃそーでしょ。そうでなきゃ商売上がったりですよ』
『そうだよな。』
『そうやって男心をくすぐるのが僕たちの仕事ですから・・・』
『また来た。あずさ2号さん。こんどで4度目だよ。
 断られても断られてもこうやって会いたいんだよな。』
『実在しないのに・・早くあきらめないかなぁ・・相手するのも疲れたよ』
『まぁまぁそう言わずに。僕らが儲かるためですよ・・・』
『あぁ。“じゃ~次の日曜日駅前でね”っと。』


中津駅前 北口 中華店前
”ここだよな。やっと会える。あきらめないでよかった”
”でもまたダメになるんじゃないだろ~な”

黒いタクシーから降り立った女、白のファーのジャケットに赤のミニ
”菜緒子に間違いない”
女はゆっくり歩いてきた。
『こ、こんにちわ。菜緒子さんですよね』
『あなたが“あずさ2号”さん?』
『はい。』
相原のニックネーム“あずさ2号”

ふたりは歩きだした。昔の様なにぎやかさはない。
不景気になって以来、繁華街に出歩くこともなくなっていた。
バブル期とはかなり変わっている。

目の当りにできた高揚感が私をじょう舌にしていた。
これまでのいきさつ・・と言うか、なぜ土壇場でダメになったのか?
私の口調はTVドラマの刑事のように
菜緒子の言葉の隅々をチェックし、一言も漏らさないように。
注意深く、確かめるように。
喫茶店から洒落たバーへ。
30歳には見えない、いやそれなりの色香の漂う女。
  


Posted by タンクん at 07:07Comments(0)

2015年06月15日

ロジカル・・・6

私はその頬杖をついての話し方も、時折見せる困った顔も、
軽く髪を掻き揚げるしぐさも、全てがいとおしく思える自分に気づき
“いかん。このままでは・・・”
話題を変えても、ついその愛くるしい顔に惹かれるのだった。

『ねぇ、今からなんと呼べばいい?』
『“まこと”でいい』
本名を言った後、“しまった”と思った。
それでも、許せるくらいすでに菜緒子の虜になっている自分にも気づいた。

バーを出てすぐに近くのホテルに直行した。
菜緒子は慣れているように思えた。
シャワーしている菜緒子を後から・・・
そして・・・

『急な仕事でごめんなさい。次は絶対会うからね。絶対だよ。
 会えなかったらさよならにするから・・それだけ真剣なのよ。』


『はぁ~、これでやっと“あずさ2号”さんともおさらばだ』
『先輩。止めるんですか?』
『ああ。こいつとも長いからな。相手するのも疲れたし。』
『あんまり長いとね・・・。他人(ほか)でかせぎましょう。』
『そうだろ。』


昨日の菜緒子を思い出していた。
全身を包む甘美な香り。妻以外の初めての情事。
“{危険な情事}みたいなことにはなんないよな”
私はすっかり虜になり、仕事などどうでもよかった。


仕事。そう今は民事再生に向けて大変な時期。
毎日のように工程の不具合が発生していた。
何より社員のやる気のなさが問題なのだ。
どうすればうまく再生できるのか?
私には全く違った2つの悩みがあった。

そして、突如悩みはもうひとつ増えることに・・・
  


Posted by タンクん at 19:43Comments(0)

2015年06月16日

ロジカル・・・7

・・・2度目の密会・・・

『やっぱりダメ。ほんとにごめんなさい。
 縁がなかったと思ってあきらめてね。』

『先日はどうも・・私のことどう思う。すぐ会いたい・・』

『あさって会える?』

『もう。終わりね。メールしないで』

『えっ。どう言うこと?』

『いいよ。じゃ~また同じ時間にね。』

『あなたとは会えない』

『同じ場所だろ?』

『何のこと? だからメールしないでよ』

私は困惑した。1度会っているのに・・どういうことなのか?
不可解なメールのやり取りをしながら2度目の密会の日はやってきた。

タクシーから降り立った菜緒子は同じファーのジャケットにミニ。
“ほんとに会えないとはどう言う事だったのか?”
目の前に存在するのに・・・

不思議な顔をしているのだろう。
菜緒子は私の顔をのぞき込み、そして二人してまたネオン街に足を速めた。
夕暮れの淡い光がなんとも言えない妙な雰囲気をかもし出している。

『あなたに会えて嬉しい』
この甘美な香り・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『絶対会えない』
菜緒子からのメールが来た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ホテルを後にした。
  


Posted by タンクん at 07:12Comments(0)

2015年06月16日

エボルブ・・・1

路地はまだ明るく、若いカップルが数多くたむろしている。
防衛本能からか、中津を離れ、行橋に来ていた。

『また会おうね』
菜緒子の頬は少し赤く上気している。
私は菜緒子の手を握り
『ああ。次の土曜日ならいいよ』

菜緒子は再三振り向きながら路地を曲がって行った。
ひと通り見送った私は、急にふいた冷たい風に現実に押し戻されたようだ。

“早く帰ろう、今日も残業だ”
とっさに言い訳を考えていた。

・・・ キー ドス ・・・

急ブレーキと鈍い音

すぐに“やっちまったな”と思った。

音は路地向こうから聞こえた。

何人かが走り寄っている。

私も軽く駆け足で近寄る。

女だ。白い服が赤く染まっている。

人垣から覗き込む。

長い足が折れ曲がっている。

近くにバッグが・・見覚えがある・・・

“えっ。誰? もしや”

私は更に近づき、その女の顔を認識した。

“菜緒子だ。間違いない”
  


Posted by タンクん at 13:49Comments(0)

2015年06月16日

エボルブ・・・2

私は走り出していた。とにかく遠くへ。
信じられない。つい先程まであんなに・・・
全身が震えていた。最後に会ったのが私なのか・・・

震える手を抑え、何事も無かったように家に帰った。

玄関の扉を開けたと同時にメールが来た。

“菜緒子”  メールは菜緒子からだった。

私は困惑していた。
たぶん菜緒子が死ぬ前に出したメールが遅れて来たんだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『民事再生の計画は次の通り。まず債権者への返済額として年間約1億円 
 これは銀行貸し入れ金の約60億円の金利は免除してもらっています。
 但し、再生後の返済をどのようにするかは協議中です。
 次に固定費の削減 にあたり、人員30%削減、現状給料の10%削減を行な
 います。
 尚、退職金等に関しましては、従来の・・・・・』

発表する管理部部長 白井の手が震えていた。

従業員の反応は解っていた。ざわついた食堂が収まる事はなかった。

一従業員である私も同じ思い。
ただ中間管理職と言う立場のあやふやなことと言ったらどうしようもない。
それでも平然と会社側に意見を発してきた私は従業員の一員として皆に頼られていたと思う。
・・・・事件が明るみになるまでは・・・・

説明会は続いていた。
会社側の言い分もわからなくはないが、こっちも生活がかかっている。
口々に文句を言い出していた。

『やっぱり会いたい。直メのアドレス教えるね。』

胸ポケットから取り出した携帯画面を見て、私は飛び跳ねた。
  


Posted by タンクん at 18:51Comments(0)

2015年06月17日

エボルブ・・・3

・・・・菜緒子・・・・・

『先輩、なんで携帯使ってるんですか?』
『あぁこれか? 客と親しくなったんでな。』
『PCだと全員にいっせいに返事ができるから、集客にはいいって言ってたじゃないですか?』
『これって客にはこの携帯を使うのさ。“あなた専用よ”ってね』
『それで心を鷲づかみってことですね』
『この方法でいちころよ。』
『あれ?“あずさ2号”って止めたんじゃなかったですか?』
『それがしつこくってさ。会ってもいないのに“昨日は楽しかったね”とか返事が来るんだぜ。
 それでこのおっさんに興味が湧いちゃってさ。』
『変な人ですねぇ。大丈夫なんですか? まさか警察だとか?』
『そんなわけね~よ。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

送られて来た菜緒子のアドレスは確かに以前のものと同じだった。
同じだったと思う。
あの日、菜緒子との関係を葬り去る為、全てを消去していた。
食堂で奇声を上げてから2日が経っていた。ひとまず落ち着いている。

社員は私の奇声の本当の意味をしらない。
自分の生活・将来設計・会社・・・・ではない。

『相原くん。君はどうする気だい?』
『えっ! 何をですか?』
『会社の事だよ? 決まってるだろ。』
『は~。はい』
『全く君はのんきでいいよ。私はつらいよ・・』

白井部長はどっちの立場にするか悩んでいたようだが、私の頭からメールの事が離れず・・・ここ2日眠れずにいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『どうしたのかな?返事は?メルアド届いてない?』

死んだはずの菜緒子からのメール。
震える手で返事を出した。
  


Posted by タンクん at 07:19Comments(0)

2015年06月17日

エボルブ・・・4

『会えるのか?』
『えぇ。もちろんよ。』

『おい。相原。どうしたんだ。聞いてんのか?』
『だから、これから月1千万返済していくんだって? できるのか?』

『なんとかできると思う。出来なかったらそれまでさ。』

『ほんとかぁ~。給料カットにボーナス無しだろ。』
『元気でないよなぁ』

彼の言うのも最もだった。
この時期みんな生活がかかっている。少しでも給料のいい所があれば、転職を考えるのは当然。
他人事じゃない。

『私。パートに出ようか?』
出がけの妻の一言が心につき刺さった。

社員の進路相談(ぐちの聞き役)・会社への要求・上司からの命令
まさに“あぁ~中間管理職”って感じだ。

それにしても問題は今日の密会。菜緒子は来るのだろうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕暮れ
太陽がやけに赤く、長く伸びた人影から、ふと“エルム街の悪夢”にはじめて登場するフレディーの影を思い出した。
やけに喉が渇く。
・・・・・・・・最初に会った駅北口の中華店前で待っている。・・・・

寒さではなく、小刻みに手が震えている。
“菜緒子は生きていたんだ。いや、でも怪我は大丈夫なのか?
 まだ、3っ日しか経っていない。ほんとに菜緒子なのか?”

赤い黄昏の光を背に、黒のタクシーから女が降りてきた。
グレーの毛皮 白いミニスカート 長い髪

いでたちは菜緒子に似ている。
  


Posted by タンクん at 13:58Comments(0)

2015年06月17日

エボルブ・・・5

菜緒子か? いや違う。明らかに別人である。

『お待たせ。“あずさ2号”さん』

私は今度は“まこと”などと本名を言うのはよそうと思った。
そして、どうしてもこの真相が知りたくなった。

・・・ほんとうの菜緒子は誰なのか?・・・・

『ねぇ。私とHするんでしょ。』
『その前に聞きたい事があるんだ。』
『なによ。早くしてよ』

手馴れた菜緒子はホテルに入るとすぐにシャワーを浴びている。
商売の臭いがプンプンする。・・・素人じゃない・・・
そうと来れば聞きたいことはひとつ。
私の態度の急変を感じて、菜緒子は尻込みをした。

『どう言う事だ!。なぜ俺と会う?』
出会い系なのに“どうして会う?”とは変な話だ。

・・・・・・・・・・・・・・ 一時間はかかっただろうか。

時折大声を出し、泣き出す菜緒子をなだめ、本場の刑事のように真相を探っていく。
途中言い知れぬ快感をも覚えた。
菜緒子は知り合いから頼まれたようだ。
“あずさ2号”(そう私だ)と1回デートすれば、2万円貰えるらしい。
デートの内容は成り行き。そこで稼ぐ子も多いらしい。いやなら帰ればいい。
会うだけで2万円もらえるなら、いいバイトである。
ただ、そいつらには何のメリットがあるのだろう?
・・・・・いかがわしい男を巧みに携帯で誘い、女に会わせる。

『知らないわよ。ただ行けって言われただけよ。』
私はそいつらの連絡先を聞きだした。どうしても、からくりを知りたくなった。
それにしても昨日車に轢かれた菜緒子は、いったい誰なのだろう。
今日そいつらがよこした菜緒子は、本来私が会うべき人。

・・・私は誰と会っていたのだろう。
  


Posted by タンクん at 16:59Comments(0)

2015年06月18日

エボルブ・・・6

『相原さん。お客さんですよ。・・警察だって・・・』
総務の小島くんが耳打ちした。

その二人(ドラマの刑事風ではない)を連れて門の前に行った。

『警察です。少しお伺いしたい事がありまして。』
『何でしょう』
『この人を知ってますか?』
刑事は顔だけがやけに白い写真を出した。

・・・菜緒子の顔・・・ 昨日の菜緒子ではない。

『いっ、いいえ。』
『おかしいですね。被害者の手帳からあなたの名前が出てきたんですが・・』
『それも、何度も。・・・あなた会ってますよね』『その日』
『どんな関係ですか?』
若い刑事(佐賀出身の新人らしい)はちょっと人を馬鹿にしたような言い方で矢継ぎ早に聞いてきた。
『愛人ですか?』
『い、いや、そんな』

私はうそが下手だ。昔からオフェンスはいいが、ディフェンスはだめだった。
正直に話した方が良さそうだ。
出会い系で知り合ったこと。
その日が2回目のデートであったこと。
車にはねられたみたいだった事。

・・・昨日の菜緒子の事は話していない・・・・

『手帳にはあなたの事が詳しく書き込まれています。』
『住所、年齢、家族構成、カード番号、貯金の額まで、まぁこれは定かではないですが・・・
かなり親しかったようですね。』
『そんなはずはない。』
『ところで、ひき逃げ車が見つかりましてね。』
『面白い事に、ハンドルにあなたの指紋がありましたよ。』
『はぁ~!! ちょっ、ちょっと待って下さい。どう言うことですか?』

『だから、あなたがひき逃げしたって事ですよ。』

・・・全く何がなんだか・・・
  


Posted by タンクん at 07:25Comments(0)

2015年06月18日

エボルブ・・・7

『昨日の女はげろっちまったよ』
『全部ですか?』
『あぁ。ここの事もな。よっぽど責められたんだろ~な。ははは。
『大丈夫なんですか?』
『何も起こりゃしないよ。おっさんにも事情があんだろ。』

・・・・・・・・・・・・・・・・

警察に行く途中私は考えていた。昨日の菜緒子のことば。

・・・・“もっと楽しくなるよ”・・・・・

私の取り調べ中、時折見せる笑顔が私を動揺させた。
会話を楽しんでいる。
会話を楽しんでいるのか?
取り調べられているのに・・・・

本物(警察)ではないので、馬鹿にされていたのか・・・

泣いているのに、ふとした瞬間の微笑みが異様なまでの恐怖を感じさせた。
そしてあの言葉“もっと楽しくなるよ”

結局、菜緒子が頼まれてまで私に会う理由は解らなかった。


それでいて今、私は菜緒子の事で警察署に向かっている。
そう、本来会うべき人ではなかった人の事で・・・・
  


Posted by タンクん at 12:45Comments(0)

2015年06月18日

ペネトレイト・・・1

警察での取り調べはきつかった。
私にはアリバイがない。菜緒子と会っていたから・・・
私の指紋があるはずがない。
刑事は指紋のついたハンドルカバーを持ってきた。
私が運転していたという証拠らしい。
私には身に覚えがない。あるはずがない。・・・
執拗な取調べは拘留期間ぎりぎりまで行なわれた。
この状況証拠だけでは弱いらしい。(私は絶対認めない)
とりあえずの釈放。逃げるにしても行き場はない。

家へと歩きながら私はふと気づいた。
・・・あのハンドルカバーは紀美子(妻)が持っていた・・・

・・・菜緒子・・・刑事の話では宇佐に住む30歳。片桐菜緒子・・・ひとり暮らし・・・
普通偽名のはずなのにとは思ったが、菜緒子は違っていたようだ。
何のために私に近づいたのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
家に帰り、すぐにハンドルカバーの事を尋ねてみた。
『なぁ~。紀美子。いつか車のハンドルカバーを見せてくれたじゃないか。何処にある?』
『なに?カバー?』
『あぁ。茶色の・・・』
『そんなこと有ったっけ?』
『有っただろ。何処だ。』 ・・・・・・・・・・怒鳴ってしまった・・・・・・・・
『なに怒ってんのよ。  あれね。たしか・・・あぁあれ。 返したわよ。』
『返したって。誰に?』
『白井部長さん』  ・・・・・・・・・・白井?・・・・・・・・・・・・

紀美子は同じ会社で経理をしていた。その時の上司が白井。今の管理部長。
私は考え込んだ。“どう言う事だ” 部長が運転してた?轢いたのは偶然?
でも検出された指紋は私の物だけ。・・・・・・・・“どう言う事だ”・・・・・・・・・・・・・
妻の話では、車マニヤの私にそのカバーを見せてくれ(誰とは言わず)と頼まれて預かったとの事。
私の意見を聞きたかったらしい。もう一ヶ月も前の話だ。
確かに私は触って、何か言ったと思う。ただそれだけ・・・

翌日。なんとか確かめようといつもより早く会社に行くと、門の前で刑事が待っていた。
“用があるなら家に来ればいいのに” “逃げも隠れもしないよ”
近づきながら駐車している車を見ると、そこには “昨日の菜緒子” が座っていた。
  


Posted by タンクん at 18:58Comments(0)

2015年06月20日

ペネトレイト・・・2

“昨日の菜緒子”はうつむいていたが、明らかにその風貌は違っていた。
あのいかにもそれ風のいでたちではない。
どこかの制服(会社の受付?)を着て、楚々としている。

私が車を覗き込んでいると、刑事が近づいてきた。
『や~、昨日はどうも』
『はぁ。何も言うことはないですよ。 うそは言ってません。』
『いやいや、今日はおたく(会社)の部長さんに用事があってね。』

“もうそこまで調べているのか”
たぶん白井部長のこと。私をはめようとした?

『すいません。お呼び出てしまして』
“わたしの時とはずいぶん違うものだ”
『何の用ですか?』
『この方はお宅のお嬢さんですよね?』
車を覗き込んだ部長は驚いていた。
『美恵。何やってんだ?』
“娘?白井部長の?”
びっくりしたのは私の方である。・・・・・“昨日の菜緒子が娘”・・・・
私は刑事と部長の話に聞き耳をたてた。 ・・・・・・・
美恵(昨日の菜緒子)は会社帰りに路上で刃物を持って暴れたらしい。
事情も何もわからない。
美恵もそのときのことをよく覚えていないらしい。
ただ叫んでいた・・・菜緒子来ないで・・・
『あなたはこの人をしってますか?』 ・・・・・・・写真を見せている・・・・・・・・
『はい。』
『どう言う関係ですか?』
『私の初恋の人です。』
『名前は?』
私は刑事の肩越しに写真を覗き込んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“菜緒子”・・・・・・・・・・・・・・・
私は、美恵が菜緒子の名を叫んで暴れたことよりも、その写真を見て愕然としていた。
『初恋って。白井さん。あんた何歳ですか?』
・・・・・・・・・・・・・・・どうみてもつじつまが合わない・・・・・・・・・・・
『それにもうひとつ。先週彼女は車にはねられたんですが、手帳にあなたの事がびっしり書かれてました。』
『どういう事ですか?』
私の時と同じ、菜緒子はいったい・・・・・・・
白井部長が警察と一緒に(娘と一緒に)行ったので、私はハンドルカバーの件を聞けずにいた。
  


Posted by タンクん at 06:46Comments(0)

2015年06月21日

ペネトレイト・・・3

今日も民事再生の計画についての説明は続いていた。
だが私にとってそんなことはどうでもよくなっていた。
わからない事が多すぎる。それに私は疑われている。・・・・・・殺人・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この時は気にするほど余裕もなかったのだろう。
考えてみれば、殺人容疑をかけられている割には、警察の追及があまい。
私は泳がされていたのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
わかっている事は、菜緒子と夜を共にし、菜緒子は車にはねられて死んだ。
そして表れた新しい菜緒子(美恵)は白井部長の娘。
そして、菜緒子は白井部長とも関係があった。

発端となった出会い系サイトに行って確かめたい。・・・・・でも何を?・・・・・・・・
菜緒子のアパートにも行かなくてはならない。

『それでは解散します。』
民事再生の話は一向に耳には入らなかった。
社員がいっせいに席をたったので、食堂は混雑していた。

私は混雑が収まるまで席をたたずにいた。
何気なくその様子を眺めていると、私に正面を向いてじっと私を見ている男がいる。
“検査の三木”だ。・・・・・・・・・・目が合った・・・・・・・・・・・・
なんて冷たいまなざしなんだ。
彼は温厚で、そんな目をする人ではなかった。 
・・・・・唇の片方だけを上げ“にやり”と笑った・・・・・
そう。すべて知っているよとでも言うような“にやり”。
私はぞっとしてすぐに三木を追いかけた。

普通に机に座ろうとしていた三木に詰め寄る。
『おい!何を知ってる?』
『なんですか?いきなり』
『今、笑っただろ。』
『何のことですか?離して下さいよ。』

私はあの“にやり”に言い知れぬ恐怖を覚えていた。
  


Posted by タンクん at 05:53Comments(0)

2015年06月22日

ペネトレイト・・・4

私の奇行はすぐに“あらぬうわさ”になった。
『相原さん 何かしたんでしょ』
『刑事が来たからね』
『なんか事故を起したそうだし』
『会社のことでイライラしてたのかね~』
『最近。変だよね』
『ついでに不倫でもしてたりして・・』
『まさか~』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は早々に会社を後にし、そのサイトの事務所に行った。
美恵の話では小倉にある。

それにしてもあの“にやり”・・・・唇の片方だけ吊上げた・・・・・・
なんとも言い様のない表情。
・・・すべて知っている。これからが楽しみだ。・・・・・・・・

私は考えていた。あの“にやり”はどこかで見た事がある。・・・・・“何処だ”・・・・・

あの笑顔、そう菜緒子の笑顔。菜緒子の目。
女だから気づかなかったが、確かに同じ表情だった。

・・・・・・・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・・・・・・

やっと見つけたその事務所はマンションの2階、全くそれらしくない。
こんな所で・・・今は何でも出来るんだ・・・
扉を開けようとした時、男が飛び出してきた。
追ってあの刑事がでてきた。
『待てこら。』・・・・・・・・・・・腕をつかむ・・・・・・・
『勘弁して下さいよ。』
『だめだ。もう逃がさん。』
『白井美恵をだましたんだな』
『バイト頼んだだけっすよ』
『よ~し。こっち来い』
その男の腕を背後にねじりあげて、階段を降りる。

刑事は傍らに立ちすくんでいた私に気づいた・・・・・・・
  


Posted by タンクん at 07:10Comments(0)