ペネトレイト・・・1

タンクん

2015年06月18日 18:58

警察での取り調べはきつかった。
私にはアリバイがない。菜緒子と会っていたから・・・
私の指紋があるはずがない。
刑事は指紋のついたハンドルカバーを持ってきた。
私が運転していたという証拠らしい。
私には身に覚えがない。あるはずがない。・・・
執拗な取調べは拘留期間ぎりぎりまで行なわれた。
この状況証拠だけでは弱いらしい。(私は絶対認めない)
とりあえずの釈放。逃げるにしても行き場はない。

家へと歩きながら私はふと気づいた。
・・・あのハンドルカバーは紀美子(妻)が持っていた・・・

・・・菜緒子・・・刑事の話では宇佐に住む30歳。片桐菜緒子・・・ひとり暮らし・・・
普通偽名のはずなのにとは思ったが、菜緒子は違っていたようだ。
何のために私に近づいたのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
家に帰り、すぐにハンドルカバーの事を尋ねてみた。
『なぁ~。紀美子。いつか車のハンドルカバーを見せてくれたじゃないか。何処にある?』
『なに?カバー?』
『あぁ。茶色の・・・』
『そんなこと有ったっけ?』
『有っただろ。何処だ。』 ・・・・・・・・・・怒鳴ってしまった・・・・・・・・
『なに怒ってんのよ。  あれね。たしか・・・あぁあれ。 返したわよ。』
『返したって。誰に?』
『白井部長さん』  ・・・・・・・・・・白井?・・・・・・・・・・・・

紀美子は同じ会社で経理をしていた。その時の上司が白井。今の管理部長。
私は考え込んだ。“どう言う事だ” 部長が運転してた?轢いたのは偶然?
でも検出された指紋は私の物だけ。・・・・・・・・“どう言う事だ”・・・・・・・・・・・・・
妻の話では、車マニヤの私にそのカバーを見せてくれ(誰とは言わず)と頼まれて預かったとの事。
私の意見を聞きたかったらしい。もう一ヶ月も前の話だ。
確かに私は触って、何か言ったと思う。ただそれだけ・・・

翌日。なんとか確かめようといつもより早く会社に行くと、門の前で刑事が待っていた。
“用があるなら家に来ればいいのに” “逃げも隠れもしないよ”
近づきながら駐車している車を見ると、そこには “昨日の菜緒子” が座っていた。