エボルブ・・・1
路地はまだ明るく、若いカップルが数多くたむろしている。
防衛本能からか、中津を離れ、行橋に来ていた。
『また会おうね』
菜緒子の頬は少し赤く上気している。
私は菜緒子の手を握り
『ああ。次の土曜日ならいいよ』
菜緒子は再三振り向きながら路地を曲がって行った。
ひと通り見送った私は、急にふいた冷たい風に現実に押し戻されたようだ。
“早く帰ろう、今日も残業だ”
とっさに言い訳を考えていた。
・・・ キー ドス ・・・
急ブレーキと鈍い音
すぐに“やっちまったな”と思った。
音は路地向こうから聞こえた。
何人かが走り寄っている。
私も軽く駆け足で近寄る。
女だ。白い服が赤く染まっている。
人垣から覗き込む。
長い足が折れ曲がっている。
近くにバッグが・・見覚えがある・・・
“えっ。誰? もしや”
私は更に近づき、その女の顔を認識した。
“菜緒子だ。間違いない”