エボルブ・・・1

タンクん

2015年06月16日 13:49

路地はまだ明るく、若いカップルが数多くたむろしている。
防衛本能からか、中津を離れ、行橋に来ていた。

『また会おうね』
菜緒子の頬は少し赤く上気している。
私は菜緒子の手を握り
『ああ。次の土曜日ならいいよ』

菜緒子は再三振り向きながら路地を曲がって行った。
ひと通り見送った私は、急にふいた冷たい風に現実に押し戻されたようだ。

“早く帰ろう、今日も残業だ”
とっさに言い訳を考えていた。

・・・ キー ドス ・・・

急ブレーキと鈍い音

すぐに“やっちまったな”と思った。

音は路地向こうから聞こえた。

何人かが走り寄っている。

私も軽く駆け足で近寄る。

女だ。白い服が赤く染まっている。

人垣から覗き込む。

長い足が折れ曲がっている。

近くにバッグが・・見覚えがある・・・

“えっ。誰? もしや”

私は更に近づき、その女の顔を認識した。

“菜緒子だ。間違いない”